不妊治療はやめられない。

もうやめないか。」

夫が言った。

千春は37歳。

不妊治療を始めて2年が経っていた。

それは、千春が最も恐れていた言葉だった。

「子供をあきらめるってこと?」

千春は笑顔を作って、軽い感じで言ったつもりだった。

でも千春の顔はひきつっていて、

夫には半ば泣いているように見えただろう。

正直なところ、千春は泣きそうだった。

これだけお金を時間も体力もすべてをかけているのに、

子供ができないなんてあり得ない。


「可能性がゼロでない限り続ける」

千春はそう決めていた。

不妊治療って今でこそ普通に使われるけど、

やってみた人にしか分からない。

お金も時間も異常にかかる。

体はだるい。気持ち悪いし、体力もない。

排卵日には決まってやらなくちゃいけない義務感。

そのうえ、努力すればどうにかなるものでもない。

「どうして、私だけがこんな目に?」

世の中の母親なんて、こんなに子供のこと考えてない。

子供のこと、欲しがってない。

世の中には幼児を虐待する親も、子供を捨てる親もいっぱいいるのに。

「子供が欲しい!子供が欲しい!子供が欲しい!」

その思いばかりが先立って、何も手につかない。

その素振りはできるだけみせないようにしてた。

でも、毎日一緒にいる夫には隠せない。

このままでは私たち二人までだめになってしまう。

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