子供はいらない!

8年前の今日、夫は千春にプロポーズした。

千春の30歳の誕生日だった。

あれから8年。二人はまたここに戻ってきている。

目の前は暗い海。

ザザー、ザザーと海の音が聞こえる。

誰もいないレストランのテラスで夫がゆっくりと話し始める。

「8年前の今日、僕は君にプロポーズした。

あのとき僕は

“千春とずっと一緒にいたい。そばにいてくれ。”と言った。

“絶対に千春を幸せにする。”と言った。」

海は相変わらず静かな波音をたてている。

「千春は今幸せ?僕と一緒になってよかったと思う?」


戸惑う千春。何も答えられない。

「僕は千春と一緒になってよかった。

千春がそばにいてくれるだけで幸せだ。

どんな千春でも、それが千春なら僕はそれでいいんだ。

君がいるだけでいいんだ。」

彼の目は強く、引き込まれそうだ。

千春の目には自然と涙があふれ出す。

千春はただ泣きながらうなずくことしかできない。

「もう子供はいいんだ。もう苦しまなくていいんだよ。

これからのこと、もう一度二人で考えよう。

僕たち二人は何があってもずっと一緒だ。」

千春は、ただただうなずく。

夫は千春の手を強く握る。

しばらくの沈黙が流れた。

「私、子犬を飼いたい・・・。」

小さな声で千春が言う。

幼いころから犬を飼うのが千春の夢だった。

子供ができるかもとずっと我慢していた。

「うん、いいよ。明日早速探しに行こう。僕たちの子犬を。」

夫はうなずく。

ああ、私はこの人を選んでよかった。

間違っていない。

苦しくて、苦しくて、大事なものを見失うところだった。

私は子供を産むために生まれたんじゃない。

私はこの人と出会うために生まれたんだ。

一人じゃない。

生きていこう。二人で。ずっと。

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