画の正面に立ち、じっとそれに見入る。
美紀のいつもの習慣だ。
先ほどの雨のせいで人は少なく、
ゆっくりと正面を陣取ることができた。
でも、いつ彼が現れるかと思うと、
画を観ていても周りばかり気になってしまう。
どうしても観たいと思っていた画だったのに、
その画の存在感は間違いないのに、集中できない。
美紀は待っていた。彼が現れるのを。
静かな美術館で、
どこからか、彼の声が聞こえるかと、
全身を耳にして。
閉館のアナウンスが流れ始める。
もうすぐ8時。
初めて彼に声をかけられたのは、
この時間だった。
閉館に向けて、何か仕事をしているのかも。
仕事を終わらせてから、
美紀のところに来るのかも。
そんな美紀の期待はあっさりと裏切られた。
係員のおばさんがにこやかに近づいてくる。
「もう閉館のお時間ですので。」
気づけば、お客は美紀一人のようだ。
彼に会えなかった・・・。
もう半年も経っている。
メールでの約束なんてきっと忘れているんだ。
そんな昔の約束、まだ覚えている方がおかしい。
あの雨の中、必死でここまでやって来て、
ドキドキして待って、何だかばかみたい。
何を期待してたのだろう。私。
〈iyokanからのお願い☆〉
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